レオナルド・ダ・ヴィンチ『絵画の書』
このシリーズ『絵画の書』では、レオナルド・ダ・ヴィンチの遺した言葉や作品から学び、絵描きとしての考え方や表現のヒントを読み解いていきます。
今回は「絵画を構成する3つの要素」について、一緒に考えてみましょう。
絵画という科学は、さまざまな表面が持つすべての色と、それらの表面が覆っている物体の形姿を扱い、さらにそれらの物体の遠近感を扱う。〜以下略〜
レオナルド・ダ・ヴィンチ 絵画の書 第一部 詩と絵画について より参照
この一文、シンプルですが絵画の本質を突いているように感じます。
3つの探究要素
ダ・ヴィンチにとって、絵画とは
色・形・遠近感
この3要素を探究する学問だったようです。
色と形と遠近感。
リズムに乗せるなら…
色と遠近感と形♪(部屋とYシャツと私のリズムで)
……失礼しました(笑)
では実際に、彼の作品から見ていきましょう。

計算されたパースと構図
この作品でまず目を引くのが、精密な遠近法(パース)です。
画面右側の建築物のラインを延長していくと、
消失点は中央奥の山へと収束していきます。
自然と視線が奥へ、奥へと誘導される構造。
さらにその山は空気遠近法で描かれており、
遠景ほど青みを帯び、霞んで見えます。
これは大気の厚みを表現する技法で、
画面に奥行きと静謐さを与えています。
構図の心理的演出
対峙する天使と聖母マリア。
その間にそびえる雄大な山——
この配置がテーマの荘厳さを静かに強調しています。
- 左側:整然と並ぶ木々、水平の塀 → 安定・静けさ
- 右側:人物の動き、衣の流れ → 感情・揺らぎ
まるで
- 天使=決定事項を伝える静かな存在
- マリア=それを受け止め驚く人間的存在
画面の左右で心理状態が対比されています。
配置は厳密に計算されつつ、
物語のリズムを生み出しているのが見事です。
補色を意識した色彩

次に注目したいのが衣装の色彩設計。
天使
- 朱色の衣
- その上に緑の衣
朱 × 緑 は補色関係。
互いを強く引き立てます。
聖母マリア
- 青い衣
- 下に黄色の衣
青 × 黄 も補色関係。
つまりこの作品、
主要人物2人とも補色設計
意図的に色が選ばれていることがわかります。
静かな宗教画の中にも、
視覚的な強さが宿る理由はここにあります。
いや〜、計算すごいですね。
正確な形態と明暗が描写されている
そしてダ・ヴィンチ最大の強みとも言えるのが形態描写。
- 手のプロポーション
- 指の動き
- 衣のヒダ
- 重力のかかり方
すべてが自然。
さらに光と影(キアロスクーロ)によって
立体感が違和感なく成立しています。
特に手。
骨格・筋肉・皮膚の厚みまで感じさせる造形は、
彼の解剖学研究の成果とも言えるでしょう。
卓越した観察力と描写力の結晶です。
あとがき
『絵画の書』の言葉と実作品を照らし合わせると、
- 色
- 形
- 遠近感
この3要素が確かに画面内で統合され、
理論と実践が一致していることが見えてきます。
文章で学び、絵で答え合わせをする感覚。
ダ・ヴィンチの思考に少し触れられた気がして、
とても面白い体験でした。
まだまだ理解は入口ですが、
これからも学び続けていきたいと思います。

